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13.第一王子の結婚(3)

溺愛に気づかない彼女は、つぶやきで世界を変える
この記事は約6分で読めます。

(セラフィが……俺のこと……)

惚れた女に「好き」と言われた。

つまりそれは、セラフィナを愛し、セラフィナに愛される権利が差し出されたということで、これほどの幸せを感じた瞬間なんてルカヴィスのこれまでの人生になかった。

(でも……)

これ以上の苦しみはこの先の人生で一度もないだろうとルカヴィスは絶望する。

胸が痛かった。

(王族でさえなければ……)

刺客に襲われるたび、毒で苦しむたびにルカヴィスはそう思っていたが、その想いがかつてないほど強くルカヴィスの胸を締めつけた。

セラフィナに、口づけたい。

セラフィナを抱いて、自分のものにしてしまいたい。

セラフィナの好意がルカヴィスの欲望に絡まる。

その甘い誘惑にルカヴィスは必死で堪える。

好意を告げられた『ルカ』にはそれが許される。

でも王太子の『ルカヴィス』がそれをしたら、セラフィナにあげられるのは愛妾としての人生。

その現実がルカヴィスを思い止まらせる。

ゼフィリオンは恋愛に関しておおらかな国だ。

愛人やセフレなど、婚姻関係がない男女の体の関係にあまり目くじらが立つことはない。

しかしそれは国全体の気風であって、個人は違う。

ルカヴィスの知るセラフィナは一対一の恋愛を望んでいる。

だから愛妾になれば、他の女性と一人の男を分け合うことはセラフィナの精神を蝕むであろう。

しかも、ルカヴィスのいるのは魑魅魍魎が蠢く政略の世界。

人として美徳である「素直さ」が嘲りの対象となり、攻撃の的になる。

楽しければ口を開けて笑う。

美味しいものを食べれば幸せそうな表情を浮かべる。

それがルカヴィスが好きになったセラフィナなのだ。

(好きだから、我慢させたくない。自由で、幸せでいてほしい)

様々な仮定や想いがルカヴィスを「このまま、いいんじゃないか?」と唆したが、結局はどの仮定もどの想いも「セラフィナの想いを受け入れてはいけない」と結論づけた。

受け入れられないならいっそ――憎まれればいい。

憎まれるほどに嫌な男になれば、セラフィナは早く自分のことを忘れる。

そしてセラフィナは次の恋を見つける。

そうするべき。

それを願うべき。

自分の頭の中の冷静な部分が諭す言葉に、その痛みにルカヴィスは唇を噛む。

だって――セラフィナに嫌われたくない。

父王は愛する女を娶り、幸せな結婚をしたではないか。

「それなら」と思っても、その二人の間に生まれた自分がどれほど苦労したかという経験が「それ」を押し潰す。

(俺、セラフィナのこと……愛しているんだな)

セラフィナに幸せになってほしい。

愛する人を一番にできた自分にルカヴィスは安堵し――泣きたくなった。

(今夜は、思い切り飲もう)

「ちょうどよかった。実は、さっきセフレの一人と別れたところだったんだ」

セラフィナの怪訝な表情を直視できず、ルカヴィスは視線をセラフィナの眉間に固定する。

「他の女と別れてくれって煩わしかったんだよな。他に女がいても好きな男に抱かれていることに変わりないんだし、騒ぐことでもないだろう?」

理解できないという風にルカヴィスは肩を竦めてみせる。

「セラフィなら、そうだな、月に三回くらいは時間とるよ」

(ごめんな……嘘だよ、大好きだ……愛してる、愛しているよ、セラフィナ)

ルカヴィスの言葉の意味を理解したセラフィナの目が潤むのが視界の端に映り、そんなセラフィナに「嘘だ」と叫んで許しを請いたい気持ちを必死に堪えてルカヴィスは軽薄に笑ってみせると、セラフィナの腰に手を回して抱き寄せる。

「どう? 上手いって言われるから、さっそく試すか?」

柔らかな体を抱きしめながら感じる甘さを感じつつ、下卑た台詞を吐く自分に、この先待つことに切なくなりながら、ルカヴィスは最後だからとセラフィナの体をぎゅうっと抱きしめる。

「セラフィだけだから……抱き合うのは一対一。三人で、なんてことはしない。だからセラフィが他の女が誰かなんて知ることはないから」

胸を強く押され、抗いたい思いを押さえて腕を緩めれば、セラフィナが抜け出すと同時にルカヴィスの顔は勢いよく右に向かされる。

「最低!」

「……痛いなあ」

セラフィナの軽蔑する目は、引っ叩かれた頬よりもルカヴィスには痛かった。

「どうかしていたわ」

(これで、いい……)

「帰って」

納得しての行動だろうと自分に言い聞かせても、ルカヴィスの足は動かなかった。

「帰ってよ!」

セラフィナが羽織っていたルカヴィスの上着を乱暴に脱ぎ、袖が裏返しのままルカヴィスに押し付ける。

「帰ってってば! 塩、まかれたいの?」

痺れを切らしたセラフィナがルカヴィスから離れた。

自分で仕向けたこととはいえ、背を向けられたことに胸が痛んだルカヴィスの目に入ったのは――張りついたシャツ越しに、薄っすら透けて見える淡く光る羽の模様。

「え?」

幻だとルカヴィスは思った。

だから何度か瞬きしたが、それは消えていない。

天命の証。

神の愛し子。

神の血を引き、神の力を使える者。

お伽噺の登場人物のように伝説的な存在。

だけどこの世界に数人は実在している、ただの伝承ではない者。

それが、いま、ルカヴィスの眼の前にいる。

証となる紋様をルカヴィスは書物でしか見たことがないけれど、これだとルカヴィスには分かった。

(セラフィナが、神の愛し子ならば……)

愛し子のセラフィナ以上の結婚相手などいない。

神々は愛し子を愛する。

伝え聞く話では激甘の親戚のように溺愛するらしい。

愛し子が暮らす国には平和と安寧がもたらされる。

愛し子につらい思いも、悲しい思いもさせたくないから。

そんな愛し子の前では、大国の姫の価値など霞んで消える芥塵。

ただし、愛し子の気分を害すと神罰が下ること。

神罰にもレベルがあり、テーブルの角に足の小指をぶつけるものから破滅まで。

ルカヴィスの場合、下手すれば王家の破滅、場合によっては国が亡んでしまう。

(いや、落ち着け……)

落ち着いて考えれば、セラフィナが神の愛し子であることなど天文学的な確率の虫のいい話。

ルカヴィスは自分の願望が都合のいい解釈、入れ墨か何かを天命の証だと思っているのではないかと不安になった。

「セラフィ」

「まだいた……え!?」

振り返ったセラフィナが驚きの声をあげる。

さっきまでセフレだ何だと言っていた男が突然手を伸ばしてくれば驚き恐怖するのは当然ではあるのだが、確認しないとと気持ちが逸っていたルカヴィスは余裕を失っていた。

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