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7.事件のその後(2)

溺愛に気づかない彼女は、つぶやきで世界を変える
この記事は約6分で読めます。

リアン侯爵本人は処刑、王妃とノアルドを除く一族は国外追放。

アマーリエ王妃は廃妃となり北にある離宮に生涯幽閉されることに決まった。

ノアルドについては王位継承権の放棄。

成人したのちは一代公爵の位が与えられることに決まり、これで王太子争いは終結したが、別の議論が勃発した。

「ノアルド王子の処遇について再考願います。王位継承権を放棄したとはいえ、公爵位が与えるとは温情が過ぎます。廃嫡したのち、国外に追放するのが適切ではないでしょうか」

ルカヴィスは、かつて同じ側で肩を並べていたはずの国王派の貴族議員たちの変化に直ぐに気づいた。

「みな、同じ意見なのか?」

国王派の貴族議員の中で一番影響力の強いエアロファーネ侯爵が頷くと、それに追従するように他の者もうなずいた。

ルカヴィスは静かに彼らを見渡す。

いままで彼らはノアルドが幼く、政治的責任を果たせないという理由で王太子になることを反対していた。

あの発言から二月もたっていないのに、今度は王太子争いに負けたのだからと、国を混乱させた責任を果たせと言う。

(これが本心ではないだろうが、な)

彼らの狙いもルカヴィスには手に取るように分かった。

彼らはノアルドの処遇などどうでもいいのだ。
ノアルドの処遇をたてに交渉したいだけ。

ゼフィリオンは宰相職、各騎士団の団長職、各部門の局長の椅子はいままでは家門で継承していたが、貴族派の台頭により宰相職以外の椅子は全て貴族派の家門に譲らされる形になった。

しかし今回の大粛清で多くの椅子がフリーになった。

エアロファーネ侯爵はその椅子のうち、彼が望んでいる財務局長の座を寄越せと言っているのだ。

(昨日の同胞は今日の敵ということ、か)

返事は後日に先延ばしにして会議を無理やり終わらせ、王宮の廊下を歩くルカヴィスの足取りは重くかった。

「兄上!」

ルカヴィスが振りかえると、ノアルドがその手に何冊もの本をもってこちらにくるのが見えた。

「図書室の帰りか?」

「え? あー……まあ……はい」

(……違ったか?)

言葉に困った様子のノアルドにルカヴィスは首を傾げた。

「兄上、今夜、私と一緒に街にいきませんか? 約束、そう、約束だったではありませんか」

確かに約束はしたが、いきなりだなとルカヴィスは思った。

「今夜は……」

“考えることがある”という言葉がルカヴィスの喉に引っかかった。

いまは考えたくない。
それがルカヴィスの正直な気持ちで――。

「兄上、私の我侭を聞いてください」

(……我侭)

普段なら「我侭を言え」と無理ですと苦笑いするノアルドが、自分から“我侭”と言っていることに興味がわくと同時に、そんなに自分は疲れて見えるのだろうかと苦笑したい思いだった。

「そうだな、約束だったな。何をしたい? 異国の珍しい料理でも食べに行こうか、それとも夜市を冷やかして回るか?」

「恩人を探したいです」

「恩人……ノアルドを保護したという平民の女性か?」

ノアルドは首を縦に振った。

「父上にお願いして探してもらっているのですが……」

「“セラフィナ”という名前しか覚えていないんだったな」

「綺麗な女性だったということはなんとなく覚えているのですが」

綺麗というあやふやな基準で、“セラフィナ”という世界の女性に最も多い名前の美人を探すなど範囲を王都に絞ってもかなり難しい。

「色を思い出そうとするとどうしても……」

「いろいろあった夜だったし、気が動転していて記憶があやふやなのも仕方がないだろう」

ルカヴィスは慰めたが、ノアルドは納得していないようで――。

「あの日が彼女の誕生日で、開けていた二本のワインはどちらも赤。ラベルから……ヴァルディア・ルージュと、カリエステ・ノワールだと思うのですが」

(父上も言っていたが、なんだってここだけは細かく覚えているんだ?)

兄ルカヴィスに無理を言って街に連れてきてもらったものの、セラフィナの家までのルートがノアルドには分からなかった。

あの夜と同じ秘密通路を使って街にきたのにあの夜の風景と目の前の風景が違って見えた。

結局、早々に恩人探しは終わりになり、食事にいこうというところで「ルカ」と兄が誰かに呼ばれて連れ去られた。

あっという間に一人残されたノアルドに、私服姿の護衛騎士がルカヴィスは街では「ルカ」と名乗っていること、便利屋と名乗って街のトラブルを解決していることを教えてくれた。

それから暫く、護衛騎士たちから自分の知らない兄の話を聞いて楽しんでいたが、徐々に一人でいることが身に沁みて、寂しいなと思ったところで――。

「ノア」

ノアルドが振り返ると、セラフィナがいた。

顔を覚えていなかったはずなのに、栗色の髪と空色の瞳を見た瞬間に「そうだった」とノアルドはセラフィナを思い出した。

(どうしてこんな珍しい空色の目を忘れていたんだろう)

「会えて嬉しいわ。さっき暫く見なかった友人に会って、なんとなくノアのことを思い出して、どうしているのかって思ったの。顔を見たいなと思っていたからとても嬉しいわ」

セラフィナが近づいたとき、ノアルドの前に護衛騎士の二人が立った。

「良かった、今日は一人じゃないみたいね。ふふふ、やっぱりいいところのお坊ちゃんだったのね」

「ちょっとした商家の次男です」

セラフィナの微笑みはそれをどこまで信じたのかノアルドに測らせてくれなかったが、疑いを口にされなかったので良しとした。

「よかった、お兄様はお元気になられたのね」

「どうして分かるのですか?」

「いまは表情が穏やかだから。あの夜のノアは、泣きべそをかいていたし」

セラフィナの明け透けな言葉にノアルドは顔を赤くした。

「やっぱり。男の子だし、泣き顔を見られたのは恥ずかしいでしょう? だから私のことは忘れてほしいと思ってたのだけど」

「お、お気遣いを……ありがとうございます……」

忘れてほしいと思ったほどなら、泣いていたことはずっと胸に秘めてほしかったとノアルドは思った。

「今夜は何を悩んでいるの?」

「兄のことで」

自分でも驚くほど、するりと悩みが口に出た。

「ノアは本当にお兄様のことが大好きなのね」

「はい!」

ノアルドはルカヴィスを慕っている。

王妃だった母親は苛烈な性格で、政略のためにノアルドを産んだことを隠さず、母親として慕うことよりも、母親の役に立つことを求められた。

父王は息子としてノアルドに接してはくれるが、愛した女の産んだルカヴィスと政略で娶った女の産んだノアルドとは、息子としての扱いに差はあった。

だからだろうか、家族として素直に接することができるのはルカヴィスだけだった。

だからこそ、いつかルカヴィスが自分のことを疎ましく思うのではないかと、ノアルドは恐れていた。

ノアルドは貴族議員たちが自分の処遇をネタにルカヴィスに交渉をもちかけていることに気づいていた。

(僕がいなければ――)

「っ⁉」

ノアルドは衝撃のはしった額を咄嗟に抑えた。

目の前を見て、セラフィナが自分の額を指で弾いたのだと察した。

「子どもがそんな顔をするんじゃないの。私に話してみなさいよ、少しは気持ちが楽になると思うわ」

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