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17.お妃様候補 | 侍女長マルセラ(1)

溺愛に気づかない彼女は、つぶやきで世界を変える
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王太子ルカヴィスが女性を伴い離宮に戻った。

その報せは城内に瞬く間に広がり、大きな波紋を呼び起こした。

何しろそのときのルカヴィスの様子の描写が問題だった。

―― 戦利品を持ち帰った山賊のようだった。

一国の王太子の様子を報告する言葉ではないが、それを目撃した者は「山賊」か「海賊」くらいの違いだけで、皆が同じことを言った。

騒動も一時わっとなれば、徐々に落ち着いて皆が冷静になる。

問題はルカヴィスが人攫いだったことではない。

誰を攫ってきたかだ。

(……あまり冷静になっていないわ)

そう思いながら痛む頭を押さえたのはルカヴィス専用の離宮で侍女長を務めるマルセラだった。

冷静沈着な彼女がここまで動揺しているのも仕方がない。

ルカヴィスはこれまで一度も女性と噂になったことがない。

そのルカヴィスが宮に、それも自分の寝所に女性を連れ込んだ。

この国の気風を考えれば、成人した男が女性とベッドで戯れても問題視されない。

むしろルカヴィスは婚約者すらいない王太子。

しかも直系の王族はルカヴィスとノアルドだけ。

戯れであっても子ができる行為をするのは構わない、と城の誰もが思っていたりもする。

マルセラとて同じ。

乳母の自分からしてみれば「あの可愛らしかった王子様が」と思わなくはないが、婚約者はいないもののその端正な容姿を活かして城下でそれなりに遊んでいたことは知っているので、そこは気にするところではない。

気にすべきは、父王のいる城につれてきたこと。

つまり、親に紹介。

ルカヴィスはその女性にご執心だということ。

(できれば同意の上であってほしいとは思いますけれど)

マルセラとしては連れ込まれた女性はルカヴィスに抗っているようだったという報告のほうが気になる。

元々実力があり、王太子となって城内を掌握しはじめたルカヴィスなら揉み消すことも可能だとは思うが、女性の意に反する行為の強要はどうかとマルセラの眉間に皺が寄る。

「まずは落ち着きなさい」

マルセラの声に浮足立っていた侍女たちが姿勢を正した。

部下が冷静になる様子にマルセラは満足する。

落ち着けば彼らも理解するであろう。

主人であるルカヴィスがしでかしていることについて、自分たちにできるのは黙認のみ。

「寝所と湯殿の担当の者以外はいつも通り、仕事に戻りなさい」

マルセラの予想が正しければ、今頃侍従長も同じような対応をしているだろう。

自分と彼の指示により、表面上ではあるが離宮がいつも通りになるであろうことにマルセラは満足する。

「湯を張っていつでも使えるようにしておいて。あと本宮にいってお相手の方の服の手配を……誰かサロンに使いを出して、明日一番に離宮にきてもらうようにしてきて」

離宮の使用人は元王妃がさし向ける暗殺者からルカヴィスを守り抜いた精鋭ばかり。

イレギュラーな指示でもテキパキと動き出す侍女たちに満足しているマルセラに、侍女の一人が声をかけてきた。

「侍女長、王太子殿下がお呼びです」

「え? もう? 早っ……こほんっ」

咳払いをして誤魔化したマルセラの目に入ったのは、いつもは見ない侍女の顔。

好奇心が隠せない、うきうきした表情。

どう見ても……ルカヴィスの恋愛模様に好奇心を疼かせていた。

でも、それを責めることはできない。

マルセラとて平気な振りはしているが、その振りも怪しいくらいウキウキしていた。

「失礼いたします」

よく考えたらルカヴィスはいつも外ですませていたから、こうして女性と一緒にいる寝所にいるのは初めてだなと思いながらマルセラは扉を開いた。

そしてルカヴィスの表情に驚く。

「マルセラ、俺は彼女と結婚するぞ」

(殿下!)

ルカヴィスに信頼されていると自負しているマルセラでも、ここ十年は見ていない「ルカヴィス殿下の満面の笑み」に嬉し涙が出そうになった。

マルセラは実な根が素直な人情家なのだ。

(……いえ、だめよ)

女性をみたマルセラは自分を諫めた。

どう見たって平民女性。

女性のきれいな顔立ちから貴族令嬢が変装している線もあったが、立ち居振る舞いから「恐らく平民」「貴族だとしても下位」とマルセラは判断した。

大切に育て上げたルカヴィス。

彼の今後を考えれば「結婚する=正妃に迎える」を許容するわけにはいかない。

ここは自分が心を鬼にしなくてはいけないと思ったが――。

「なにを勝手なことを仰っているのですか? 私は結婚しないと言っているではありませんか」

(……断られていますけれど?)

どういうことだと、マルセラは首を傾げた。

「遊び人なんかと結婚したら不幸の奈落に真っ逆さまです」

「遊び人なんかではない、王子だ」

「王子だって遊べますし、遊んでいらっしゃったでしょう」

こんなやりとりをずっと眺めていたマルセラには、一つだけ分かったことがある。

この二人、両想い。

(あの上着も殿下のものですしねえ)

彼シャツならぬ彼上着を着た女性。

しかもボタンをしっかり全てはめて、ぶかぶかの袖も折って、しっかり着ている。

あれでNOはないなとマルセラは思う。

そして、いまマルセラはとても楽しんでいた。

女は何歳になっても恋愛ロマンスが好きなのだと実感していた。

「ご存知ですよね? 私は愛し愛される、平凡な結婚を望んでおります」

「“平凡な”なんて今まで条件になかっただろう」

ルカヴィスの反論に女性は分かりやすく目を逸らした。

その素直さにマルセラは彼女の愛らしさを感じた。

「王子様に求婚される夢は五歳で捨てました」

「拾えばいい」

(そういう問題なのかしら)

「そういう問題ではありません。王太子なら、殿下は大国の姫君か高位貴族のご令嬢を妃として迎えなくてなりません。そんな決まりがないとしても、そうしなければいけない理由を経験なさった殿下ならば、その重要性がお分かりのはずです」

(あらまあ、かつてのエレノア妃殿下を見ている気分だわ)

エレノア妃、つまりルカヴィスの生母である先代王妃も国王(当時は王太子)のカリスティオンの求婚をそう言って断っていた。

カリスティオンの乳姉弟であるエレノアは当時カリスティオンの侍女として彼に仕え、その一部始終を見ていた。

(エレノア様は陛下に絆されたけれど、この女性は……なかなか難しそうですわね)

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